スマート農業への取組・農業用ICTツール利用
スマート農業実証プロジェクト
実証農家のハウスに設置された光合成量計測チャンバーと、視察に訪れる関係者ら
JA西三河の生産部会では、政府の推進するスマート農業実証事業の採択を受けたスマート農業への取組を行い、国や地方公共機関、IT企業や大学等の研究機関と協力しながら数々の実証課題に取組んでいます。
実証事業の期間終了後も、得られたデータや機材を活かした高度な栽培管理を行うとともにノウハウを共有し、産地全体での生産力向上に役立てています。
2019~2020年度 ICTに基づく養液栽培から販売による施設キュウリのデータ駆動経営一貫体系の実証(施設キュウリ)
JA西三河と愛知県西三河農林水産事務所、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構など11の機関でつくる「日本をリードする施設キュウリスマート農業実証コンソーシアム」は、2019年度・2020年度、国によるスマート農業関連実証事業の採択を得て進める実証事業「ICTに基づく養液栽培から販売による施設キュウリのデータ駆動経営一貫体系の実証」を行いました。
この実証事業では、①養液栽培ICT化、②養液栽培データを用いた養液土耕栽培、③生育・収量予測および生育診断、④キュウリ栽培に適した統合環境制御装置といった技術の導入により、10%以上の作業時間削減(1トンあたりの作業時間:89h/t→80.1h/t)と30%以上の反収向上(26.5トン/10アール→34.5トン/10アール)を掲げました。
実証の結果、①養液栽培では反収を約44%向上(26.5トン/10アール→38.3トン/10アール)、②養液土耕栽培では反収約14%向上(31.3トン/10アール→35.7トン/10アール)などを達成。養液栽培の導入による土づくり等の作業時間の削減、統合環境制御機のプログラム改良による自動化等により、収量1トン当たりの労働時間を11.2%削減可能と結論付け、当初の目標を達成することができました。
2021~2022年度JA西三河における生産から流通・販売のデータ駆動一貫体系の実証(施設キュウリ・施設イチゴ)
引き続き2021~2022年度にかけては、国のスマート農業技術の開発・実証プロジェクトの採択を得て、「JA西三河における生産から流通・販売のデータ駆動一貫体系の実証」を行いました。
JA西三河と愛知県西三河農林水産事務所、(株)東海ローディングなどの機関でつくる「日本をリードするJA西三河きゅうり部会スマート農業実証コンソーシアム」によるもの。キュウリだけでなく施設イチゴの生産者も参画しました。
出荷情報の活用による積載率の向上、レギュラー販売と袋詰め販売の収益差の向上、袋詰め機導入による農業所得3%向上を目標に掲げて販売・物流・袋詰め販売のスマート化にむけた実証を行いました。
実証の結果、①出荷情報の活用による出荷予測についてキュウリ、イチゴの産地全体の各出荷予測ツールを作成し、積載率10.5%向上、②レギュラー販売(市場販売)と袋詰め販売(契約販売)の収益差は袋詰め販売が16%高い、③袋詰め形態で販売することと、2週間先の天気予報等のデータを用いた出荷予測モデルを事前販売や量産店との商談に活用することにより、経営全体として農業所得が8.7% 向上 などの成果を上げました。
2023~2024年度 JA西三河いちご部会における生産から販売のデータ駆動一貫体系の実証(施設イチゴ)
2023~2024年度には、「JA西三河いちご部会における生産から販売のデータ駆動一貫体系の実証」と題した施設イチゴを対象とするスマート農業実証事業を行っています。
JA西三河と愛知県西三河農林水産事務所、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構などの機関でつくる「日本をリードするJA西三河いちご部会におけるスマート農業実証コンソーシアム」によるもの。
西尾市のイチゴ栽培は、栽培面積17㌶・年間出荷量900㌧(2023年現在)と県内トップクラスを誇っていますが、燃油・肥料等の資材価格の高騰に伴うコストの上昇、生産者の代替わりに伴う技術継承の困難、費用高騰と労働力不足による大規模化への障害など、産地規模の維持には多くの課題が山積していました。
この実証事業では導入技術として、①ヒートポンプと送風ダクトを利用した局所環境制御と高効率暖房機の導入、②スマート選果システムによる雇用労働力・労働時間の低減、③画像処理による出荷量予測を実施。それぞれの数値目標の達成に向けて実証を行っています。
関連ページ
スマート農業実証事業の視察受け入れについて
JA西三河の農業用ICTツールやスマート農業の取組について、視察をご希望の団体様は、下記の様式をダウンロードし、必要事項をご記入の上で以下の窓口までEメールもしくはFAXにてご連絡くださいますようお願い致します。
農業用ICTツール活用への取組
バラの栽培ハウスで「あぐりログBOX」の表示を確認する農家
ICT協議会 市内で農業用ICTツールを利用する生産者が集まり、情報共有を行う
JA西三河は農家所得増大をめざす自己改革の一環として、農業用ICTツールを活用した施設園芸の高度化を進めています。温度・湿度・CO2濃度の見える化により農家の気づきを引き出し、ハウス内環境の最適化により光合成能力向上から生産量増大につなげています。さらに機器導入の際の制度資金活用、灯油価格高騰時のコスト施策など、多段階の施策で産地力の増強をめざしています。
農業用ICTツールへの取組は2014年からスタート。西尾市内で盛んで技術革新の著しい施設園芸に着目 し、技術力の高い農家とIT企業と緊密に連携し、現場のニーズに即した使いやすいツールを開発しました。
開発したのは環境測定器「あぐりログBOX」、食・農クラウド「Akisai(秋彩)」の2種。これらのツールは2015年度よりキュウリを中心にイチゴ・トマト・ハウスイチジク・バラ・菊の各部会で本格導入を開始し、温度・湿度・CO2濃度等の環境測定データや栽培履歴の共有を通して栽培技術の見える化・ノウハウ化を図っています。
「あぐりログ」による生産部会内でのハウス内環境情報の共有により、各生産者は、自分のハウスに必要な環境制御機器を自覚できるようになりました。例えば「2月の日中の時間帯にCO2濃度が下がってしまうのでCO2発生機を導入したい」や「3月に換気量が多くなると樹勢が落ちるのでハウス内の飽差を下げたい」などの具体的な導入動機ができ、CO2発生機やミスト装置の導入が加速しています。機器を使いこなす上でもモニタリング情報は有効に活用され、生産性の向上に大きな役割を果たしています。
「Akisai」は潅水・施肥・防除の作業記録を現場で簡単に入力出来るようカスタマイズしており、全年齢層の部会員にスマートフォンやタブレットの普及が進みました。入力・収集したデータは、栽培や経営に役立つ情報として紙やWebで生産者に還元しています。
その一例としてJA西三河きゅうり部会による『農薬使用ランキング』があります。これは直近の部会内で多く使用されている農薬や、昨年の同時期に使用された農薬のランキングを提供するもので、各生産者はこれを効果的な防除に活用しています。通常クラウドへの入力作業は生産者にとって義務感・負担感の強いものですが、同部会ではこのクラウドから有益なフィードバックがあることが入力への動機付けとなっています。
また、スマート農業実証プロジェクトの開始以後は、そこで実証を行った農業用ICTツールやノウハウの横展開による普及を行い、生産者全体で活用できるよう取り組んでいます。
2021年度以降は、県・市や関係機関およびきゅうり部会の生産者7名とともに「西尾きゅうり産地内連携型データ駆動施設園芸推進コンソーシアム」を形成し、2019-2020年に実証した「ICTに基づく養液栽培から販売による施設キュウリのデータ駆動経営一貫体系の実証」の際に有用性が実証されたスマート農業の技術について、関係機関のサポートを得なながら技術の普及を図りました。今後は技術普及の取り組みをさらに拡大し、将来的にはきゅうり部会全体へ広げ、データを通じて産地全体が連携する「強い産地」を目指しています。